結婚から離婚まで③

 それまでの企業内社員食堂経営は、父親の急死で右も左もわからない状況で手探りで四苦八苦しながらなんとか運営してたんだ。

少しづつ業務にもなれて。順風満帆とはいかないまでも経済的・労働環境的には最高な職場だったと思う。

その一方で、身の丈にあってないとずっと思ってた。

 

いわゆる親の七光りで、なんの取り柄もない屑男が、同年代の社会人の2倍くらいの所得をたいした苦労もなく稼いじゃってるんだしね。

なんとなく漠然とこんな良い暮らし長くは続かないんじゃないのか・・そんな不安が薄い煙の様に常にまとわりついていた。何か人並みに努力や苦労しなくちゃいけないんじゃないか? この先、資産になるような経験をしなくちゃダメな大人になるんじゃないか?ずっとそんな事考えてた。

何をすればいいのかもわからず、とりあえず資格の勉強とかもしてみたよね。

日商簿記2級とか調理師資格とってみたり、通信制の大学で経営の勉強もした。

 

でも、あんまりモヤモヤした漠然とした不安みたいなもんは中々消えなかったね。

 

そんな、同年代の友人からは羨まれる一方、自分の中の漠然とした不安との板挟みで何ともモヤモヤした状態だったけど、なんやかんや30歳まで大きなトラブルもなく仕事は続けられた。七年くらいかな。

 

もうそんだけ続けてたら業務自体はもうベテランだしね。日々の運営に関しては何も問題なかったんだけどさ。

ある日突然突きつけられるわけさ。絶望ってやつを。

 

それは、屑男の経営している企業内社員食堂の入っている工場の工場長から突然言い渡された、工場移転の話。

工場移転と言うよりは、既存の工場との合併だね。不況の煽りで事業の縮小を行うとの事。合併する工場には既に社員食堂があるとの事で、屑男の社員食堂が一緒についていく事は出来なかった。実質的な契約更新ストップです。

 

工場閉鎖までの猶予一年。

 

その一年で食堂畳んで出ていかなきゃならない。ってか、出てくもなにも工場自体がなくなっちゃうんだけどね。

 

屑男の漠然とした不安が突如現実になった瞬間だったわけだ。そりゃもう絶望したね。

 

なんてったって、高校卒業後すぐに父親の食堂で働き始めた屑男はまともに就活もしたことない。どこかの企業・組織で働いたことは学生時代のアルバイトくらいしか経験ないわけだ。そんな30歳。

さらに子供三人。前妻の両親の面倒まで見ている。経済的心配しないわけないし、そもそも就職先あんのか?状態。

普通に考えて絶望しないなら、そりゃ楽天家なんてもんじゃなく世間知らずだよね。

 

幸い、個人でなく法人で食堂経営して、財務状況も良好で銀行借り入れもなかったから、また別の事業を一から始めるって選択肢もあったにはあったけどね。

前妻とは度重なる協議の末、子供三人抱えて、うまくいく補償もない新事業をやり始めるほど度胸もノウハウもない。さすがにそんなギャンブル出来る状況に無いと判断。

 

会社畳んで、転職活動に乗り出したわけですよ。

 

屑男のスペックだとね、難航するのはわかってた。

だから、出来る事は全部片っ端からやろうと思った。転職エージェント利用して、暇あれば転職サイト漁ったりしてね。

転職先の方向性としては、それまで食堂経営してきたわけだしね。やはり、飲食業系で探してたよね。

 

そして、今思えばそれが間違っていたと思う。

 

そこが俺の人生のターニングポイントだったと今は思うね。

 

まぁ、工場移転の猶予期間一年の間に会社を畳む準備しつつ転職エージェント利用してさ。精神的にも肉体的にも疲弊しきって迎えた31歳。前妻と結婚10周年。

それまで、小競り合い的ないさかいはあるものの、大きな喧嘩もすることなく仲良く幸せだった夫婦生活も、こんな絶望的状況で結婚10周年を迎えるとは思いもしなかったね。

それでも子供の為に遮二無二に転職活動頑張った。

 

何社か書類で落とされ、何社かは面接までいって。

4社くらい内定貰えた。

 

正直喜んだ。そりゃもう喜んだね。

どれもこれもブラック企業臭はプンプンしていたけどね。

それでも、飲食業界なんてほとんどそんなもんだし。なにより屑男が仕事を頂けたってだけで感謝の極みって感じだった。そん時は。

 

まぁ、なんやかんやで4社いただいた内定を前妻とよく吟味。

どれもこれもブラック臭はプンプンだけど、それでもまだマシそうな一社に絞る事に。

 

それは、都内中心に健康趣向の定食を提供しているカフェ風レストランを展開していて、当時3~4店舗を運営している会社。これからどんどん店舗展開していくから人材募集しているとのこと。

居酒屋業態とかで酔っ払いの相手したり、昼夜逆転の生活は出来るだけ避けたいと思っていたからランチ業態に好感。さらに、店舗が増えてくればキャリアアップも期待できるかも?なんて期待を胸に入社を決める。

 

まぁ、これが地獄への片道切符だとはその時の屑男まだ思いもしてません。